あしたの少女 チョン・ジュリ監督 「WTC911」

あしたの少女

美しい映画だった。


スクリーンの中で起きていることはわかる。しかしどんどん主人公の少女が追い詰められてゆく前半の最後、彼女が湖に下りてゆくシーンを見ても何も感じない。前半は少女の苦悩。


日本でもおなじみのペ・ドゥナ(是枝裕和監督の「怪物」にも接点がある。)が刑事役として出てきてからも、映画は淡々と筋書きを進めてゆく。この刑事も当初この事件を単なる自殺と片付けようとする。しかし・・・
刑事と少女は、生きる者と死体という関係でしかすれ違うことはない。途中、少女がダンススタジオに昔の仲間を訪ねたとき、その中にペ・ドゥナがいてこの瞬間だけがふたりの生きた接点だ。
ソヒの死が、どうやら単なる自殺ではないと感じた刑事は、上司の圧力を排して自分でこの捜査を継続する。後半は刑事の苦悩。


随所に印象的な美しいシーンがあるが、最も神々しいシーンは、生き疲れてサンダルで山奥に向かうソヒの足元のほんのわずかつま先あたりに差し込む光。ダンサーを夢見た彼女に刺した唯一の光は足元にも及ばず、そのことを掲示のペ・ドゥナが追体験するシーンがある。それまで淡々と流れてきた緊張感のあるドラマは、ここで凄まじく劇的なシーンを見る側に提示する。もうここでなぜか涙が止まらなくなる。


人の命より重要なものなどあるのだろうか。それは生きとし生けるもの全てに言えることだ。ソヒという少女が追い込まれるまで、それぞれの仕組みに無駄はない、企業の責任と言えばそれは簡単だが、単純にそれだけではない。ソヒに当たるはずだった美しい光は結局あたらなかった。そしてその根本原因が果たしてどこにあるのかをここでは提示しない。


こういう映画を公開できる韓国が羨ましい。日本では「福田村事件」もクラウドファンディングでしか製作できないほど表現の不自由、あるいはメディアを支配する国家のプロパガンダ政策が強さを増し、そのことをほとんどの国民が知らない。




それにしても東京にはこういう地味な映画を上映する映画館があって、しかも数は少ないがこういう映画を高く支持する映画ファンがいて、キネノートで「福田村事件」とシーソーゲームのように首位を争うというときがあって、これは素晴らしいことだと感じている。

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今思うと、とてつもなくすごいことが起きた。恐ろしい映像が残されていた。

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