市子 戸田彬弘監督

市子」を公開二日目のシャンテで鑑賞。劇場はほぼ満席だった。



サスペンス仕立ての映画なので、公開間もないこの素晴らしい映画のことを多くここで書くことはできない。だが少なくとも、知られざる世界がここにはある。長いデフレで高度成長期に溜め込んだ資産を全て失ったこの国で、法律の隙間からこぼれ落ちた存在のない子どもたちがいる。そのことを知るだけでも十分すぎるほどの映画だった。


映画は幸せそうなシーンから始まる。男女の食卓で「何が好き?」という会話。味噌汁の匂いに対する憧れなどが言葉となり、男から女(市子)にプロポーズされる。きっとハリウッド映画なら、男が女の前にひざまずいて指輪を手渡すのだろうが、ここでは白紙の婚姻届が市子の前に提示される。感動で涙する市子。しかしこの涙の裏に隠された意味を我々は知らない。そして翌日、市子は突如として失踪する。



町山智浩さんの解説にもあるが、ラスト数分のシーンは言葉にできない。杉咲花さん演じる主人公の表情が画面いっぱいに映されるシーンがある。あの主人公の表情、市子の表情は言葉を持たない。彼女は何も言わない。無表情の彼女がスクリーン越しに我々見る側に何かを訴えるようなシーン。彼女の見つめる先には、失われた日本が横たわっている。この救いのない現実。夕日を浴びて呆然とする市子のもとに母親が帰ってくる。そのときに放たれた言葉・・・。


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