鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 古賀豪監督
幼い頃にドキドキしてテレビで見たり、おそるおそる手にした漫画の「ゲゲゲの鬼太郎」ではない。この映画は、水木しげる先生の生誕100周年を記念し、その偉大なる存在をリスペクトしつつ、日本というこの国が転落てゆくのを阻止しようとした水木先生の思いを十分に受け止めた傑作であった。素晴らしかった。
主人公の名前が”水木”というところからも、このドラマが水木しげる先生の生誕100年を大いに意識し、且つ、先生の戦争体験を含めた日本という国家に対する極めてシビアな批判が映画の中に隠されていると感じた。
水木という銀行員が、鬼太郎の父親と出会って悪霊とこの国を転落させた巨大資本と対峙するというとてつもなくスケールの大きな話しになっている。
前半はサスペンスで後半は壮絶なアクションシーンへと展開するが、根底にはこの国に強要されこの国のために死んでいった人々の影が重なる。その影は水木しげる先生の戦争体験そのものだろう。ゲゲ郎が豪族にとらわれて「腕を切り落としな」と命ぜされるシーンは痛みを覚える。水木先生が戦場で失った自らの左腕の痛みがこの映画にほとばしる。これは単なる反戦映画ではない。失った腕の痛みはいたるところに存在する。
11月に劇場公開されてから2ヶ月以上経過した、土曜日の朝一番の回はかなり席が埋まっていて、お客さんの層も幅広く、この映画に対する熱い思いが伝わる。主人公が最後の最後で「なぜか涙が止まらない」とつぶやいて終わるこの映画は、果たしてその涙の理由の理解を示さない。そして自分もまた、このラストシーンに理由もなく涙をぼろぼろと流す。いまだにその理由がわからない。
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